2024年問題とは

2024年4月1日から施行された働き方改革関連法は、トラックドライバーの残業時間を年間960時間(月平均80時間以内)に制限し、過労を防ぐための措置法。長時間労働を改善し、ドライバーの労働時間を短縮する目的がありますが、残業時間が減少すると、収入の減少・ドライバーの離職・運送会社の対策に関心が集まります。
2024年問題とトラックドライバーの労働時間の変化
2024年4月から、ドライバーの労働時間はどう変わるのか。現場目線を踏まえて解説します。

月の残業時間が平均80時間に

2024年4月からは労働時間がかなり細かく制限されました。

001620626.pdf (mlit.go.jp)自動車運送事業における時間外労働規制の見直し 国土交通省より出典

PowerPoint プレゼンテーション (jta.or.jp)公益社団法人 全日本トラック協会より出典。
2024年4月以降、トラックドライバーの労働時間は、以下のように変わります。
- 年間残業時間 960時間
- 2~6ヶ月平均の残業時間 80時間以内
- 単月残業時間 100時間未満
年間残業時間 960時間

月の残業は80時間を目安にすれば、年間960時間となります。
なお1日の最大残業時間は、15時間(通常8時間+休憩時間+6時間残業)以内とされていますが、14時間を超える日は1週間に2回以内と定めています。
現場では、週の曜日により忙しい日、早く帰れる日が存在し、仮に1日15時間働いたとしても、別の曜日で残業を減らす必要が。残業規制があるとはいえ、長時間労働のイメージが強い業界。現役のトラックドライバー視点から、人材不足に悩む運送会社は、残業を削減し働きやすい職場に変える傾向が見られます。
職業ドライバーは最低限の知識として、月の残業時間は80時間以内と理解しておきましょう。
単月の残業時間が80時間までと考えた場合の、簡単な具体例を紹介します。
週休2日制で月23日(31日−8日間休日)勤務と仮定。
1日の残業時間 | 80時間以内(〇or✕) |
4時間×23日=92時間 | ✕ |
3時間×23日=69時間 | 〇 |
1日最大15時間(6時間残業)が認められているとはいえ、月80時間以内と決められています。上記の例で考えると、1日平均3〜4時間以内の残業で帰社しなければいけません。繁忙期で1日15時間働いたとしても、他の日で残業時間を調整する必要が。会社の管理者は、月80時間を超えないよう、ドライバーの時間管理をする必要があります。ドライバー自身も残業を美徳と考えず、時間を意識した行動をしましょう。
2~6ヶ月平均の残業時間 80時間以内

2〜6ヶ月の平均残業時間も、80時間以内と規制されますので、具体例を書いて説明します。以下の数字は、あるドライバーの6ヶ月間の時間外労働時間です。
月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 |
残業時間 | 72 | 70 | 80 | 65 | 68 | 73 |
平均残業時間の計算
期間 | 合計時間 | 平均時間 |
2ヶ月(5月・6月) | 68+73=141 | 141 / 2=70.5 |
3ヶ月(4月・5月・6月) | 65+68+73=206 | 206 / 3=68.67 |
4ヶ月(3月・4月・5月・6月) | 80+65+68+73=286 | 286 / 4=71.5 |
5ヶ月(2月・3月・4月・5月・6月) | 70+80+65+68+73=356 | 356 / 5=71.2 |
6ヶ月(1月・2月・3月・4月・5月・6月) | 72+70+80+65+68+73=428 | 428 / 6=71.33 |
上記の表からわかるとおり、全ての期間の平均残業時間が80時間以内。つまり、「2〜6ヶ月平均で月80時間以内」の規制を満たしているといえます。
補足
5月と6月の2ヶ月間を選んで平均を計算するのは、任意の2ヶ月間を選んで規制を満たしているか確認するため。どの月を選んでも月80時間以内にする必要があります。
単月残業時間 100時間未満

ひと月の残業時間は100時間未満までとなりますが、気をつける点があります。2〜6ヶ月の平均残業時間も、80時間以内と規制されますので、両方満たさなければなりません。
具体例を用いて説明します。
平均残業時間を80時間以内にする具体例
以下の数字は、あるドライバーの6ヶ月間の時間外労働時間です。
月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 |
残業時間 | 85 | 75 | 80 | 75 | 70 | 70 |
平均残業時間の計算
期間 | 合計時間 | 平均時間 |
2ヶ月(1月・2月) | 85 + 75 = 160 | 160 / 2 = 80 |
3ヶ月(1月・2月・3月) | 85 + 75 + 80 = 240 | 240 / 3 = 80 |
4ヶ月(1月・2月・3月・4月) | 85 + 75 + 80 + 75 = 315 | 315 / 4 = 78.75 |
5ヶ月(1月・2月・3月・4月・5月) | 85 + 75 + 80 + 75 + 70 = 385 | 385 / 5 = 77 |
6ヶ月(1月・2月・3月・4月・5月・6月) | 85 + 75 + 80 + 75 + 70+ 70 = 455 | 455 / 6 = 75.83 |
上記のように、月の残業時間が100時間未満とされていても、平均時間を80時間以内とするため、残業調整が必要。年間960時間の残業労働を達成しつつ、2〜6ヶ月平均で月80時間以内、月100時間未満の規制を守るのが必須となります。
2024年4月からの労働時間は、年間残業時間が960時間・2〜6ヶ月平均の残業時間は80時間以内・単月残業時間は100時間未満と、制約が多い印象です。
現役ドライバーの体感では、会社での細かな説明はありません。「月の残業が80時間までと決まったので、長時間労働をしないように意識しましょう」レベル。
各ドライバーに詳しく説明したところで、理解させるのに時間がかかり、現場が混乱する恐れもあります。残業時間を気にしすぎて、事故や破損を起こされてはたまったものではありません。トラックドライバーの本業に集中してもらうため、簡単な説明にしたのでしょう。「月の残業は80時間まで」の意識で、日々仕事に励むのが賢明です。無理に残業する必要はなく、月40〜50時間で終わるなら、月80時間残業にこだわる必要がありません。
特別条項付き36協定

運送業には36(サブロク)協定が存在し、1日8時間を超えて残業させてもよい法律です。
年間の残業時間960時間は変わりませんが、以下の規制が適用されません。しかし、実際の現場では、社員の健康管理の観点から、残業は月80時間を目安としています。
- 2~6ヶ月平均の残業時間 80時間以内
- 単月残業時間 100時間未満
36協定を結んでいても、脳卒中・心臓病・うつ病・睡眠障害など、健康被害の恐れをなくすため実際の現場では、残業は月80時間を目安に労働時間を管理する傾向があります。
2024年問題は、労働時間を短縮するのが目的。1ヶ月100時間もしくは月平均80時間を超える残業は、過労による労災の危険性があります。実際の現場では、疲労防止の観点から、月80時間以内と考えているのでしょう。本音を言えば、月60時間前後の残業で収めたいと察しています。
トラックドライバーは、1日12時間以上働く業界。未経験からの転職者や新卒者からすれば、長時間労働に該当します。せっかく入社した人を離職させないためにも、「稼ぎたいのか、自分の時間を大事にしたいのか」をドライバーに確認し、適切な労働配分を考えなければなりません。例えば、「残業したくないドライバー」には早く帰社できるコースを、「稼ぎたいドライバー」には、1日15時間を超えない程度で仕事をしてもらうなど、会社は柔軟に対応するのが賢明です。

000463185.pdf (mhlw.go.jp)厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 働き方改革関連法解説より出典
2024年問題と罰則

2024年4月1日以降に労働時間を超えて残業させた場合、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」と明示されています。労働基準法 | e-Gov法令検索(労働基準法第119条1項)。具体的には、年間残業960時間を超えた場合。
労働時間が制限されると、運送会社の収益低下・トラックドライバー確保の困難・荷主との運賃交渉、といった問題が生じます。とはいえ罰則が設定されている以上、会社は労働法に抵触しないよう配慮し、ドライバーはもらえる給料・賞与の使い方を考える必要性も。
本来であれば労働時間の規制は2019年4月から開始ですが、物流業界は長時間労働になりがち。トラックドライバーの特殊な働き方から、5年猶予され2024年4月から適用されました。今に始まったことではないので、立場は違えど会社も社員も、仕事や生活スタイルを改革する転換期となるでしょう。
中継輸送の活用

2024年4月1日から月の残業時間を80時間以内とするため、特に長距離をメインに運行している会社は、中継輸送を選ぶ必要があります。中継輸送とは、1泊2日の運行(2日で1工程)を、中継拠点を使えば日帰りで運行できる仕組み。
例えば名古屋を中継地点とし、大阪や東京に輸送すれば労働時間を短縮できます。しかし、走行距離が短くなると会社の利益が減るので、ドライバーの収入が減少する可能性大。同時に運送業界は慢性的に人手不足のため、仕事を請けたくても取れず、会社の売り上げも減少する原因になります。

001620628.pdf (mlit.go.jp)中継輸送とは(国土交通省)より
労働時間の規制による収入の影響

労働時間が短縮されると、ドライバーの収入はどう変わるのか。現場目線を踏まえて解説します。
トラックドライバーの収入は残業時間に比例する

多くのトラックドライバーは、基本給+時間外手当が大きなウエイトを占めますから、労働時間が制限されると収入が減る心配があります。
実際現場では月100時間以上、残業があってもおかしくない業界。残業が80時間に制限されると、当然収入が減少するでしょう。今まで勤務してきたドライバーは、法律が施行されたせいで、生活が苦しくなるのは受け入れがたいです。会社はドライバーの離職を防ぐために、基本給を上げたり能力手当を設けたりするなど、賃金を上げる努力をしなければなりません。
仮に給料が上がったとしても、生活水準を変えられない人は、より収入の高い仕事に転職する可能性もあります。
2024年問題は、過労働を防ぐための措置。働き方が叫ばれる中、ドライバーは、仕事や生活のあり方を変える必要があるかもしれません。
月の残業が60時間を超えると残業賃率が50%になるが

月60時間を超えれば残業賃率が50%になり、ドライバーにとっては残業代が少し多くなります。しかし、走った分だけ稼げる業界では、総労働時間が減るのは事実。残業割増賃金が多少増えても、以前の働き方と比べれば給料は減るでしょう。労働者の健康と安全を守るための働き方とはいえ、稼ぎが少なくなれば、「なんのために働いているのか」わからなくなります。
トラックドライバーはどこの会社も人手不足ですから、条件が良ければ離職する人や、他業界へ転職する人もいるでしょう。
会社収益の減少

特に長距離ドライバーは、1日15時間を超える運行コースが存在します。労働時間を守るには長距離運行をやめるか、中・短距離コースに仕事を変更するなど、会社側は対策を考える必要があります。
運送会社は、「走る距離が長いほど金が良い」業界。長距離から中・短距離コースに変更すれば、会社の収益が下がるので、2〜3本増やさなければなりません。荷主と直接契約している運送会社は、仕事量の不安は少ないです。しかし下請け孫請け会社は、1次請け会社から仕事を貰っているので、運行コースが1本なくなるのは、会社の収益を大幅に減少させるでしょう。
わたしは、下請けの運送会社にいた経験があります。下請けは元請けから仕事を貰う立場。しかし実際は、配送のほかに付帯業務が多い印象があります。例えば、センター納品でヨーグルトの配送があれば、ブルーベリー・イチゴ・マンゴー・バナナなど、種類ごとに分ける仕事がそう。店舗配達では、冷凍うどん・冷凍チャーハン・冷凍ピラフなど、冷凍コーナーに補充する仕事もあります。「ドライバーの仕事なのか」と思う時もありますが、元請けからの仕事に不満ばかり言うと、仕事がなくなる可能性が高くなるため、淡々とこなす毎日。特に下請けの運送会社は、元請けの仕事がなくなると死活問題に発展しますので、労働時間の短縮は、かなりインパクトがある政策でしょう。
多重下請け構造の問題について

多重下請け構造とは、荷主会社から1次請け(元請け)会社が受注し、1次請け会社から2次請け(下請け)会社へ仕事を依頼する仕組み。荷主は自社トラックを持たない会社が多いので、直接運送会社に仕事が来ます。
1次請け会社が受け取る契約金額は、荷主会社からの受注金額です。しかし2次請け会社が受け取る金額は、再依頼する金額となるため少なくなる傾向が。
1次請け会社でも、自社ドライバーに限りがあるため、2次請け会社に依頼します。2次請け会社の受注金額が低下するのは、1次請け会社が利益を確保するため。3次請け4次請けとなれば、更に受注金額が下がる可能性があります。下請け構造を解消するには、荷主と直接契約を結ぶか、1次請け会社と運賃交渉するしかありません。
特定の元請けに依存せず、複数の荷主から仕事を受注し、リスクを分散させるのが賢明です。
2024年問題についての質問と回答

質問①ドライバーの残業時間の上限は、960時間で月の平均が80時間だと思います。しかし2024年4月から、月の残業を60時間以内とするそうです。他の運送会社も残業時間を減らす傾向がありますか?
トラックドライバー2024年問題について質問いたします。 – ドラ… – Yahoo!知恵袋
回答①将来的に残業時間を減らす傾向がある。
2024年4月から年間残業時間が960時間となり、月平均80時間以内となりました。
トラックドライバーの人手不足もあり、今すぐ労働時間を短縮できないため、60時間を超える部分は、割増賃金を払ってでも運行しているのが現状。
いつまでも年間残業時間が、960時間働ける保証はありません。2024年問題は、割増賃金を払いたくないのが理由ではなく、残業時間を見直すための措置。運送会社は、ドライバーの増員や長距離運行の停止など、さまざまな方法で労働時間を短縮するでしょう。
残業時間の規制で、「走った分だけ金になる」時代ではなくなりました。昭和世代の考え方を改め、自由な時間を「すきまバイトや副業」に使い、会社だけに頼る時代ではなくなったのかもしれません。現状を悲観せず、自分で行動する勇気が問われるでしょう。
質問②2024年問題で、給料は下がりましたか?
トラックドライバーさん2024年問題で給料下がりましたか? – Yahoo!知恵袋
回答②会社とドライバーのコースによる。
運送会社がどれだけ利益が出ているかにより、給料のベースアップが変わります。余裕のある会社では、人材離れを防ぐため基本給を上げるでしょう。もともと残業がないコースだと、本人が納得している場合も多く、不満が出る理由はありません。しかし、多くのドライバーは残業あっての給料。「残業時間が減ったから賃金が減る」が理由だと、ドライバーは納得しないでしょう。実際残業が減ったせいで、生活が厳しくなったので辞めていくドライバーもいます。不満があれば、稼げるコースに変更してもらうとか、必要なモノしか買わない節約術など、自分の頭で考えて生活に潤いを持たせる工夫をし、納得するしかないでしょう。
質問③2024年問題が関係するのは長距離ドライバーのみで、短距離ドライバーには関係のない話でしょうか?
トラックドライバーの2024年問題が関係するのは長距離ドライバーのみで… – Yahoo!知恵袋
回答③長・短距離問わず、1日の労働時間による。
短距離コースであっても、1日15時間を超える時もあります。例えば、午前中30件の配達があり、午後から10件の集荷がある場合。午前中30件の配達は、市内であっても終わりません。休憩も取らずそのまま集荷に入り、気が付けば14時間弱働いていることが良くあります。
人手不足でコース自体に問題があり、改善できなければ、年間残業時間が960時間を超える可能性大。なお、1日の最大残業時間は、15時間(通常8時間+休憩時間+6時間残業)以内とされており、14時間を超える日は1週間に2回以内と定めています。
長距離か短距離かは関係なく、1日の労働時間が12〜13時間程度であれば、残業規制に抵触しないでしょう。